📂 「エリオットを追う」シリーズ #1 NIPPON EXPRESS編 / #2 東京ガス編(前編)/ #3 東京ガス編(後編)(本記事)/ #4 豊田自動織機編
前回、エリオットが東京ガスに現れた日のことを書きました。2024年11月19日に大量保有報告書が提出され、翌日株価は+15%動きました。
では、エリオットは東京ガスに何を求めていたのか。そして東京ガスはどう動いたのか。今回はそこを読んでいきます。
エリオットが目をつけたもの
報告書の「保有目的」欄には「重要提案行為等を行う」とありました。では、何を提案しようとしていたのか。
関係者への取材をもとに各メディアが報じた内容によると、エリオットが狙っていたのは東京ガスが保有する不動産でした。
東京ガスは都内一等地に大量の不動産を持っています。
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新宿パークタワー(西新宿)— 上層階にパークハイアット東京が入る超高層ビル。1994年開業、工事費約1,500億円。映画『ロスト・イン・トランスレーション』の舞台
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msb Tamachi(田町)— 複合オフィスビル
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豊洲の広大な土地(約20ヘクタール)— 旧ガス工場跡地
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八重洲の旧本社ビル跡地(中央区)
これらを含む不動産全体の含み益は約4,500億円。エリオットはさらに広く試算し、75を超える資産・プロジェクトが売却可能で、総額最大1.5兆円の価値があると見ていました。
東京ガスの時価総額とほぼ同規模の価値が、不動産に眠っている——そういう話です。
なぜ今だったのか
エリオットが動いた背景には、東京ガスのROE(自己資本利益率)の急落がありました。
2023年3月期には20%まで上昇していたROEが、2024年9月末時点では**4.8%**まで落ち込んでいました。脱炭素関連への大型投資が続く一方、過去の好業績で積み上がった純資産がだぶついていた状態です。
エリオットから見れば、「不動産を売って株主に還元すれば、ROEは一気に改善できる」という構図が見えていたわけです。
東京ガスはどう動いたか
報告書が出てから約5ヶ月間、東京ガスは動き続けました。
2024年11月28日、笹山社長は記者会見で「特定の株主についてはコメントしない」と煙に巻きながらも、「資産効率の高くないものは売却も考えたい」と含みを持たせました。
2025年1月31日、3Q決算説明会で「企業価値向上委員会」の設置を発表。3月に具体的な方針を公表すると宣言しました。
2025年2月2日、エリオットが珍しく公式声明を出しました。「東京ガスの自社株買い拡大と資本効率向上策を歓迎する。埋もれた企業価値を引き出す意味ある第一歩だ」と。
2025年2月21日、東京ガスはテキサス州のシェールガスプロジェクト持分を静岡ガスに約130億円で売却すると発表。「ポートフォリオを絞れ」という要求に沿った動きでした。
2025年3月26日、包括的な投資家向け説明会を開催。ROE8.1%達成を計画し、上期中に最大1,200億円の自己株式取得を実施すると表明しました。
新宿パークタワーは売られたのか
結論から言うと、売られていません(少なくとも現時点では)。
東京ガスは新宿パークタワーを「基幹アセット」と位置づけており、エネルギー事業とのシナジーもあると説明しています。一方で、収益性の低い資産については「用途転換や売却を含めて検討する」という方向性を示しました。
全部売るわけではない。でも、何かは変わる——そういう着地点です。
大量保有報告書が教えてくれたこと
エリオットが報告書を提出した2024年11月19日の時点で、この後の流れはある程度読めていました。
「重要提案行為等を行う」という一文。不動産売却という要求の方向性。ROEという数字の問題。
これらは全部、報告書が出た瞬間に公開された情報です。その後、東京ガスは実際にその方向へ動きました。
大量保有報告書は「起きたこと」の記録ではなく、「これから起きること」のヒントを含んでいます。