2025年春、わずか1週間で5.19%から11.81%へ。前回の参入編で見たのは、旧村上ファンド系の村上側が、フジ・メディア・ホールディングス(4676)株を短期集中で一気に積み上げる場面だった。フジHDも4月30日に「8つの具体的強化策」で応じたが、村上側の手はそれで止まらない。
ここから半年、攻防は持久戦に入る。そして面白いのは——攻める側と守る側とで、その記録が残る「場所」が分かれていく点だ。買い増す村上側の足跡はEDINETの大量保有報告書に。構えるフジHDの一手は、適時開示(TDnet)に。今回はその両方を並べて、夏から冬への攻防を追う。
7月、四度の買い増し——13.32%から16.32%へ
参入編の短期集中フェーズから間が空き、村上側がふたたび動いたのは7月だった。今度は連日ではなく、数日おきに変更報告書が並ぶ。
2日から10日までの間に、13.32%から16.32%へ。変更報告書が4本積み上がった。参入編の「連日」ほどの勢いではないが、保有割合はじりじりと切り上がっていく。短期集中から持久戦へ——買い増しのリズムそのものが、フェーズの移り変わりを伝えている。
フジHDの応手——「対応方針」という有事型の防衛策
7月10日、フジHDが動いた。「株式の大規模な買い付け行為に関する対応方針」を取締役会で決議。いわゆる買収防衛策の導入である。折しもフジHDは6月25日の定時株主総会で、別のアクティビストである米ダルトン・インベストメンツの株主提案を退けたばかり。攻防の最前線が、株主提案から防衛策へと移った局面でもあった。
買収防衛策には2種類ある。具体的な買収リスクがない平時に「念のため」入れておく事前警告型と、すでに具体化した買い集めへの対応として入れる有事導入型。フジHDのものは後者——目の前で進む村上側の買い増しを念頭に置いた、有事型だ。
仕組みはこうだ。特定の株主グループの議決権割合が20%以上となるような大規模買付に対して、フジHD側は手続きを求める。買付者から説明書を受け取ってから60営業日以内に取締役会で是非を検討し、対抗措置が必要と判断すれば、同じ期間内に株主の意思を確認する総会を開く。そこで議決権の過半数の賛成が得られれば、新株予約権の無償割当などの対抗措置を発動できる——買付者の持ち分を希釈する、いわば最後の切り札だ。
ここで、Martifyらしい視点をひとつ。この対応方針は、EDINETには載らない。大量保有報告書を提出するのは「株を買う側」の義務であって、防衛策を出す「会社側」の開示は、適時開示(TDnet)という別の制度に乗る。
つまり同じ攻防が、二つの川に分かれて流れている。攻める村上側の足跡はEDINETに、守るフジHDの一手は適時開示に。きもと(7908)の回で見た「分母の二重構造」、参入編で見た「名義の二重構造」に続く、いわば「開示の二重構造」である。片方の川だけを見ていては、攻防の半分しか見えてこない。
9月、17.33%——持久戦の到達点
防衛策を入れられてなお、村上側は引かなかった。
7月の16.32%から、9月には17.33%。防衛策の発動ラインは議決権ベースの20%——保有割合とは分母が少し違うが、その水準にじりじりと近づいていく。残り数%が、いよいよ重みを増す領域に入ってきた。
ここで、共同保有者の欄をもう一度のぞいてみたい。参入編では、野村氏を中心に複数のビークル(投資の器)が次々と動員される様子を見た。攻防編で起きているのは、その先——買い増しの主役そのものの交代だ。
実質保有の中心である野村氏は、この間ずっと8.96%で動いていない。買い増しを担ったのは、あとから加わった器たちだった。7月前半はエスグラントコーポレーション(1.47%→3.76%)が、続いてシティインデックスファースト(2.35%→4.59%)が9月にかけて、入れ替わるように保有を積み増していく。なお7月8日の届け出だけは、1%の買い増しではなく担保契約の変更による更新——参入編で触れた信用取引の担保が、ここでも動いていた。表に立つ顔ぶれは変わらないまま、実働部隊だけが入れ替わっていく。その移り変わりまで、共同保有者の欄は淡々と記録している。
12月、最大33.3%への通告
そして12月。村上側は、防衛策が用意した土俵そのものに上がってきた。
12月15日、野村氏らはフジHDに対し、議決権比率を最大33.3%まで買い増す旨の通告——大規模買付に関する説明書を提出した。33.3%は、3分の1を超えると株主総会の特別決議を単独で止められる、「3分の1」の壁だ。単なる値上がり益狙いではない、という参入編からのメッセージが、具体的な数字を伴って一段はっきりする。
受け取ったフジHDは、対応方針の手続きに沿って動き出す。臨時株主総会の招集に向けた基準日を2026年1月18日に設定。防衛策を発動するかどうかを、株主に問う構えを見せた。
次回・撤退編へ
参入編の短期集中、攻防編の持久戦と防衛策。舞台は、基準日のあとに控える株主の判断へと移っていく。17%超まで積み上がった村上側のポジションと、20%ラインで構えるフジHDの防衛策。この均衡が次にどう動くのか——それは次回・撤退編で。
最後にもう一度。村上側の買い増しはEDINETの大量保有報告書で、フジHDの対応方針や基準日設定は適時開示で、それぞれ翌営業日にはたどれる。二つの川を併せて読めば、上場企業をめぐる攻防は、ニュースの見出しを待たずとも、私たち個人投資家がリアルタイムで追えるのだ。
(次回・撤退編へ続く)