その日は102件だった。
件数が多い日は保有割合の高い順に並ぶので、上から順に読んでいく。13%台のところで見た名前を、10%台でまた見た。9%台でもう一度見て、6%台で四度目に見たとき、手が止まった。
Umios株式会社。
四つとも、増減が±0.00だった。
動いていない四行
いずれも変更報告書である。保有割合は一つも動いていない。それでも4通、同じ日に出ている。
大量保有報告書は、保有割合が1%以上動いたときに変更報告書を出す——という説明をよく見る。代表的な場面はそれで合っているのだが、それだけではない。共同保有者が増えたり減ったり、担保契約等の重要な契約が変わったりしても、義務は生じる。
では、この四つはどれだったのか。
一通目を開く
提出事由は、表紙に一行で書いてあった。
提出者の商号変更及び所在地変更。
提出者の概要欄を見ると、こうなっている。
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氏名又は名称:Umios株式会社
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旧氏名又は名称:マルハニチロ株式会社
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住所又は本店所在地:東京都港区高輪二丁目
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旧住所又は本店所在地:東京都江東区豊洲三丁目
動いたのは株ではなかった。持っている側の名前と住所が変わったのである。
二通目も、三通目も、四通目も、事由は一字一句同じだった。60日間の取得又は処分の状況は、4通とも空欄である。この60日、1株も売っていないし買っていない。
3月1日と、8月21日
もう一つ、表紙に書いてあることがある。
報告義務発生日は2026年3月1日。提出日は2026年8月21日。
5か月半ある。
こういうときに「遅い」と書きたくなるのだが、そこは書かない。期限をどう数えるかも、それをどう扱うかも、決めるのは当局であってこちらではない。日付を並べるところまでが、こちらの仕事だと思っている。
以前、6週間分の報告が同じ日にまとめて届いた話を書いた。あのときも同じことを考えた。通知に「新規」や「変更」と出ていても、それは「いま起きた」という意味ではない。 届いた日と、起きた日は別である。
No.18、No.20、No.7、そしてNo.1
表紙にはもう一つ、通し番号が振ってある。変更報告書No.いくつ、という数字だ。
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OUGホールディングス:No.18
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林兼産業:No.20
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横浜丸魚:No.7
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紀文食品:No.1
同じ提出者が、同じ日に、同じ事由で出した4通なのに、番号がばらばらである。しかも一つは20回目で、一つは1回目だ。
つまり、この名前とこの4社の付き合いは、それぞれ長さが違う。林兼産業とのあいだには、これまで20回の報告書がやりとりされてきた。担保契約等の欄には、平成20年に差し入れた株の記録がそのまま残っていて、平成25年に解除した行も並んでいる。OUGホールディングスの欄には平成18年の日付がある。
紀文食品の一通には、担保契約の欄に何も書かれていない。まだ何も積み上がっていない。
古い付き合いと、新しい付き合いが、同じ日のリストに並んで届いた。
保有目的欄が、一つだけ違った
4通の保有目的欄を並べると、こうなる。
OUGホールディングス、横浜丸魚、林兼産業の3通は、同じ一文だった。
企業グループ間取引の維持強化のため。
紀文食品の一通だけ、違っていた。
発行者との資本業務提携及び取引関係強化のため。
通知では、この1件だけラベルが「政策・取引」で、他の3件は「その他」になっていた。原本を開くまで、なぜ分かれているのか分からなかった。分かれていた理由は、この一行の違いである。
投資ファンドの報告書だと、保有目的欄に増配や自己株式取得や非公開化の提案について何行も書いてあることがある。それと比べると、どちらの文もほとんど何も言っていないように見える。
ただ、この文と、事業内容欄に書かれた「漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売」を並べて読むと、なぜこの会社がこの4社の株を持っているのかは、だいたい見当がつく。取引のための保有であって、値上がりのための保有ではない。だから何年も動かないし、動かないから報告書も出ない。
出たのは、名前が変わったからである。
動かないものは、通り道がない
この4行は、どこにも出てこなかった。
値動きのニュースには出ない。株は動いていないのだから当然である。増減率で並べ替えるスクリーニングにも出ない。増減がゼロだからだ。Martifyの「注目の動き」にも出ていない。増減幅が採用条件に届かないので、こちらの設計上も拾わない。
見落とされたのではなく、そもそも通り道がない、と言ったほうが近い。
気づく方法はひとつしかなかった。その日の102件を、上から順に全部見ることである。しかも4行は保有割合の順に並ぶので、互いに離れた位置にいる。13%台と6%台のあいだには、何十行も別の報告が挟まっている。四度目にようやく「またこの名前だ」となる。
そのあと、4通を開いて、表紙の一行ずつを突き合わせる。
そうやって初めて、この会社が上場企業4社の大株主だったことが、一日のうちに分かる。20回目の付き合いと1回目の付き合いが、同じ日に並んでいることも分かる。名前が変わらなければ、来年もその次も、この4行は出てこなかったはずである。
動きを追う読み方では、動かないものは見えない。ただ、動かない報告が一度に出ると、その名前がどこにいるかの地図になる。今回はたまたま、地図のほうが先に届いた。